10月初旬に引越してから、ADSLの開通待ちをしているあいだ久しぶりに読書にふけっていた。友人に以前から勧められていた山崎豊子の「沈まぬ太陽」全5冊を買い込み、数日前にようやくすべて読み終えた。
山崎豊子といえば、有名なのが「白い巨塔」。組織や人間が織りなす複雑さを巧みに描いた作品が多いなか、沈まぬ太陽は新たな手法で書かれた作品。舞台の背景は日本の航空会社である「国民航空」である。本書を少し読み進めていくとすぐにピンとくるが、半民半官でスタートしたナショナルフラッグを掲げる航空会社という設定で、すぐに日本航空"JAL"だとわかる。
航空会社で働く一人の人物とその周囲の人間や組織との静かな戦いが全編をとおして横たわるなか、組織が一個人にたいして行っていく長期間におよぶ不当待遇、労務問題、安全に対する会社上層部の常識外の行動や認識、政官民癒着、事なかれ主義、職権乱用、横領など戦後日本が辿った一部の暗部をえぐりだすように描かれている。
山崎豊子自身もあとがきで述べているが、「新たな手法」で書かれた本書は、限りなくノンフィクションに近いところにありながらも、フィクションである部分を併せ持っている。執筆にあたっては500人以上の関係者に約5年にわたって直接取材を行ったとされるが脚色された部分もあるため、本書を読んですべてが事実だとは思ってはいけない。事実とフィクションの割合は推測いたしかねるが気を緩めるとフィクションで描かれているであろう部分も圧倒的な事実らしい出来事に覆い尽くされそうで、その区別がつきにくいかもしれない。
わかりやすくいえば「半分ウソ」くらいの気持ちで読み進めていくのがよいだろう。
テーマは重たいが実際に行われた組織による個人への理不尽なまでの対応や、かのJAL123便御巣鷹山事故、腐敗した会社を建て直そうとする新しいリーダーなどの活躍は、ページをめくる手をやすやすと止めてくれない。そして実名ではないが多くの実在した人物が登場して頭に描かれる情景にリアリティーと息づかいを加えてくれる。
いつもいつもこの手の本だと疲れるが、たまにはエッセイや短編集などにはない重厚なドラマを味わうのも必要だと感じた一冊だった。
山崎豊子/沈まぬ太陽PR